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クリスマス話その2

他の人がどう思うかわかりませんが、私はイギリスの「クリスマスイブ→クリスマス」は日本の「大晦日→お正月」にイベントの流れとして似ているなといつも思っていました。

その日をめがけて皆が紙に書いたメッセージの交換をする(クリスマスカード&年賀状)、お店が閉まっている、離れたところに住んでいた家族が実家に集う、深夜には日ごろ隠していた信仰心を披露(日本は初詣、イギリスではミサに行く)、どう考えても家族でいっぺんに消費しきれないほどの結構重たい味付けの「特別料理」がテーブルに並び、それを食べ、大量のアルコールを消費し、長時間テレビを見るなどなど。実は近年「~らしさ」が失われている、と嘆く人が増えているところまでいっしょだったりして(^^唯一大きな違いだと思ったのは日本の大晦日から元旦にかけては電車は終夜運転をしていますが、イギリスでは電車さえ止まってしまい車で動くしかなかったことでしょうか。

イギリスでクリスマスを数回過ごしましたが、当時車を持っていなかった私は、毎年公共交通機関が動かなくなる前にその年クリスマスを共にするお宅へ数日分の荷物をもって移動していました。「えぇっ?!クリスマスに実家に帰らないの?それは寂しいわね、ぜひウチにいらっしゃいよ。」という流れだったので、本当に私個人を「ぜひ」と招いてくれているのか、それとも特にこの時期彼らの間で大いに発揮される慈善の心で「恵まれない外国人に施しを」というチャリティの一環だったのか、最初はわからなくて戸惑いました(笑)

元来のずうずうしい性格も手伝って、途中で「どっちでもいいや」となりました。それはとりわけ私の指導教官だったビクトリアの実家を訪ねたときの経験によるものでした。

彼女は大学院の学部主任教官。私の滞在中ずっと、指導教官だった人です。私と10歳も年は違いませんでしたがこちらは生徒であちらは先生でした。政府の環境機関のボードメンバーにも若くして選ばれ、才色兼備を地で行くかなり地位の確立した女性ですが、実際のビクトリアは会ってみるとお高く留まったところは全くなく、いつでも両手を広げて「こっちへおいで」というようなオープンで暖かな人です。私は事あるごとに季節イベントをビクトリアとその家族と共に過ごしました。

12月23日になると彼女の森の一軒家にお邪魔します。その日はコミュニティや職場の人を家に招いてドロップイン・スタイル(勝手な時間に来て、勝手に帰る)のクリスマス・パーティを彼女が準備して盛大に開催。忙しいのに、冷蔵庫に残っているものまで使い切りながらぱっぱとおしゃれな前菜を作って、それ以外の材料も手際よくオーブンに放り込み、あっというまにたくさんのお皿が埋まっていきます。あとは赤ワインにスパイスやオレンジをいれてモールド・ワインという甘いホットワインを作り、訪れた人をその都度歓迎します。

私はビクトリアへのお手伝いの意味も込めて、新たに到着したゲストへのドリンクお勧め係りを引き受け、来る人来る人にモールド・ワインを勧めては注ぎます。あとで数えたら小さい森の一軒屋に数時間のうちに200人近くの人が来た事になりました。

楽しく騒いで、料理をして、24日のお昼ぐらいまでは賑やかなのですが夜に近づくと突然雰囲気が厳かになりだします。12時の鐘を聞くと、たくさんの防寒着を着こんで、村の教会のミサへ。あちこちから同じように肩をすぼめて道に出てくる人たちに出会います。さながら日本で紅白が終わって、突然多くの人が初詣に行くため道にでてくるのと同じよう(笑)私はクリスチャンではないので、教会の中でひととおりイベントの流れに身を任せながら、祭壇の前へいってひとりひとり祝福を受ける、というようなところはただ見守っていました。

教会から帰ってくるとビクトリアは部屋のクリスマスツリーの横にある小さなテーブルの上にワイングラスを置いてミルクを注ぎ、その隣にニンジンを一本置きました。「ミルクは家に来たサンタさん用、ニンジンはトナカイ用よ」。暖炉の隣にビクトリアとダンナさんのリック、そして私の名前の書いてあるソックスを吊るしてベッドに入りました。

翌日の朝、「さあ、早くこっちにいらっしゃい!プレゼントをあけるのよ!」と戸惑う私を、パジャマ姿の「先生」が夫婦の寝室の中にまで誘います。夫妻のベッドの上で3人でパジャマ姿のまま、サンタさんのくれたプレゼントのつつみをビリビリと破り始めました。私の名前の書かれたソックスの中には小さいみかんと一緒に、ハンドクリーム、チョコレートなどちいさな贈り物が一杯つまっています。それにもうひとつ大きな箱も!こちらの中には真っ赤なフリースのジャケット。「あなたはあまり派手な色を着ないから。赤も素敵よ」とビクトリア。私は森から採ってきたハニーサックルのツルを煮て、白いツルと茶色い皮に分け、それでツートンカラーのバスケットを編んでプレゼントしました。(安上がり(^^;)

リビングへ行ってみると昨日用意しておいたニンジンが一口分くらい欠けていて、注いであったワイングラスのミルクが無くなっていました。グラスのふちには綿毛のようなものが。「サンタさんが来たのね。髭が残っているわ(笑)」とビクトリア。

もちろん、全て彼女が一人でしくんでプレゼントも全員分用意して、ミルクもニンジンもしつらえたのです(もちろん、「サンタの髭」も)。それでも翌朝、「サンタさんが来たわよー!」と一番楽しんでいるのもビクトリア自身。彼女、普段は政府の環境トピックの専門委員会などに出席している高名なドクターなのですが。

「生徒」が一緒にいようが、まったく飾ることなく素のまま。しかも私のような他人をプライバシーの一番深いところまで無邪気に招き入れて、クリスマスを少女のように楽しんでいるビクトリアの様子を見て、というか私も一緒になって楽しんだ結果、「施されたのか?」なんて考えること自体がばかばかしくなってしまったのです。そして「信じる人にはサンタさんが来る」と、子供のときは大人にどんなに言われても信じなかった私が、不覚にも30過ぎになって「来るんだー…」とまじめに思えてしまったりて。

今年もミルクがワイングラスに入っているんでしょうねー。
by nicecuppatea | 2008-12-25 21:55 | イギリスでのこと(季節)
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