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The beauty of this job...

先日、会社の海外本社からCEOが来日し、日本人の営業関連社員400人程に、仕事について話すかなりざっくばらんな「対話式」セッションがあり、その通訳を行いました。

そもそも他の大きなイベントで来日し、その機会を利用して作られたセッションの場。打ち合せの時間もなく「ではどうぞ~」と会場に招き入れられ、ノートとマイクだけ持ってぶっつけ本番で臨みます^^;

いくつかの難しさは明白でした(^^まず、参加者に対してCEOの英語を逐次で日本語通訳しますが、「対話式」なので、会場の参加者からでてきたに日本語の質問は、ウィスパリング(耳元でささやく同時通訳)でCEOに英語で伝えます。通訳は私ひとり、マイクはハンドマイク、立ったまま、ノートは手持ち、となると、スタート時ですでに小道具のアレンジに読み違いがあった感が^^;;

CEOは情熱溢れる人で、とても早口。セッションを企画した部門から通訳の私への依頼は、「できるだけ双方向のコミュニケーションにして、CEOの情熱とメッセージを社員に伝えてほしい」というもの。だから「講演の後で質疑応答」ではなく、話しつつ、質問に答えるという形となりました。
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人の声というのは話者の後ろに回ってしまうと、驚くほど聞こえなくなります。質問を受ければ、時には観客席に入りこまんばかりの勢いで動き回るCEOの横にすかさず回りこみつつ、マイクを片手に全身で聞き取りながらメモをとります。1時間程のセッションが終わるころには、ノートの紙は床に落ち、最初はマイクのケアをしてくれていた舞台進行の人も、途中で諦めたらしくどこかへ行ってしまい(笑)

前々日からみっしりと通訳が立て込んでいて、そろそろ脳みその動きが気持ちについて行かなくなっていたセッション終盤、ふとアタマが真っ白になり、同じフレーズを聞き返しても、全く意味がアタマに入って'こない事がありました。社内イベントとはいえ、悪夢ですよ。

けれどそのCEOは、It's my fault(私がいけないんだ)、と言って、べつの言い方をしてくれました。もちろんCEOのfaultであるはずがありません。完全な私のfaultです。

that's okay. Don't worry.なんてことも言えたと思うのです。けれどそこでそうは言わずにIt' my faultと言った。この言葉の違いは私にとってとても大きかったのです。

That's okay. Don't worry.では、私のfaultであることを相手は認めたことになるでしょう。「でも、いいよ」ということです。けれどIt's my faultというと、「キミは悪くない(もちろん悪いのだが)、だからいいんだよ」という意味になります。あの時、CEOは、真っ白になって申し訳ない思いでパツパツになっていた私に、「逃げ道」を残してくれようとしたのではないかと。

このCEOという人は、結構な立場の人で、世界27カ国で展開しているビジネスのトップ。その人が営業の現場の人たちに等身大で語り、通訳の間違いにも「自分のせいだ」という。

通訳を通して、普段の自分の立場であれば、決して会うことのないような人と間近に接して、その人の奥深さに触れた時、あ~、この仕事やってて良かった、と思うものです。「冥利に尽きる」という日本語がありますが、私はもっと単純な英語Beauty of the job、という言い方が、なんだか現状にしっくり来る気がして、とても好きです。

ま、通訳のできなさ加減は、それとは別にきっちり反省しなければなりませんが、ね。

セッション後、「大変な状況の中、メッセージと情熱を伝える通訳をしてくれてありがとう」と、担当部署からはもったいないねぎらいの言葉が。へこむこともあっても、こんな言葉を頂く事があると、どこまでも高い木に登ろう、という気になってしまうものだから、厚かましくも続けていられるんですよね、この仕事^^
by nicecuppatea | 2012-02-26 19:44 | 会社でのこと(通訳)
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